希望に充ちた残念な豚の話14「かさぶた」
豚は傘をさしていた。
傷跡に被さったものを「かさぶた」という。
小さい頃、皮膚はすぐに突き抜け血や肉が現れた。
「痛いって」
殴り合ったり転んだり、料理中に指を切ったり。
瘡蓋は毎年厚くなった。
夏、ピンポイント豪雨が崖の下を歩く豚を襲った。
土砂が豚に覆いかぶさった。
薄れゆく記憶の中、眠った。
重い。
それから二日後、救助隊に発見された。
俺生きてる、そう思った。
集中治療室に入り、九死に一生をえた。
それから数日、舌を通る風の温度まではっきりとわかった。
皮膚の生傷に虫がとまると自分がまるで熟れたトマトでカラスに突つかれた気分になった。
日を追うごとに瘡蓋が硬くなり、乾いたペンキのように剥がれ、新しい皮膚があらわれた。
豚は毎日回復する自分を寂しく思い、そして忘れた。
〈2011.8.16〉
希望に充ちた残念な豚の話13「豚とドラゴン」
豚の住む世界は現実か。それはわからない。
豚たちはドラゴンを頑丈な鉄格子の中に飼っていた。ドラゴンはとてつもないエネルギーを持っていた。
軽く息を吐けば、焼き畑ができるし、乗り物として使えばすぐに大陸から大陸へ移動ができた。
豚はドラゴンを首の輪っかでコントロールした。三蔵法師が孫悟空をコントロールしたようにだ。
しかし、ある日。輪っかがはずれ多くの豚が死んだ。多くの豚の兵隊がドラゴンを押さえにかかった。
何をしても豚は歯が立たない。多くの豚学者は論議を交わした。そんな中、年老いた豚の長老がドラゴンの説得に向かった。
昔から災害が会った時はそうしてきたのだ。しかし、豚の長老は一瞬でチャーシューになった。
豚は智慧を絞り洞窟にドラゴンを閉じ込め、そして土を被せ埋めた。数日後、ドラゴンは地面を突き破り、炎を再び吐き出した。
こわいこわい。誰の責任か。
<2011.4.17>
希望に充ちた残念な豚の話12「分裂する豚」
豚はある日、小説家になることを決意した。しかし筆を持つことができなかった。蹄に挟むという困難さに豚は疲弊した。
豚が20歳を過ぎた頃、一般人でもパソコンを買う時代になり、ようやく豚も物語を書くことができるようになった。 そんな時、目にとまったのが村上春樹と村上龍という名字が同じ作家だった。
豚はどちらも数冊ずつ読んだ。春樹が「サラサラ淡々」で龍が「熱い」。
体に小説をおとしこんだ。
豚は2人の小説から流れるものを憑依させ、書いた。
しかしながら三日三晩、寝ずに書き続けたものは、章ごとに春樹っぽいものと龍っぽいものに分かれて一貫性がなかった。そこで豚は気づいた。そうか春樹っぽいものは春樹っぽいもの、龍っぽいのは龍っぽいでまとめようと。 ただ、そうすると面白みが消えていることに気付いた。無論、他人の意見を求めたわけではない。
豚がそうこう考えていると、次第に熱が出てきた。知恵熱という奴だろうか。生まれてこの方、股間こそ熱くなれど頭が熱くなった記憶はない。医者にかかることにした。豚は考えた。シンプルに内科にいけばいいのか、それとも神経科という奴にいけばいいのか。原因は考え過ぎだ。神経科に行くことにした。
その日の病院は驚くほど空いていた。診察を受けようとすると医者が奇妙なことを言った。
「あなた五分ほど前にも診察受けたじゃないですか」
豚はやべえと思った。隣のレールに乗ってしまったようだと。
隣のレールに乗るとろくなことがないことを豚は知っていた。内科の診察にゆけば、楽しい豚の生活に戻るのだと豚は考えた。豚は豚目黒の神経科を飛び出し、内科を必死に探した。内科などコンビニのようにありふれているはずなのに何故か見つからない。豚は日常を取り戻すため恋人に電話をすることにした。
<2011.2.20>
希望に充ちた残念な豚の話11「豚の糸」
豚は寝台列車に乗っていた。大旅行だ。何せハバロフスクからモスクワまで針葉樹林が茂るタイガと呼ばれる地域を走るのだから。
旅は順調だったが、ある日暖房が効かなくなった。
「寒い」
ふと温度計を見るとマイナス15℃。
「やべー。自分も他の乗客も死ぬ」
直感的にわかった。死ぬんだ。眠いんだ。そう思っていたところ、右上のベッドから、クロスして自分のベッドに他の豚が落ちて来た。この「他の豚」は自分よりすぐに死ぬだろうと豚にはわかった。でも豚自身もすぐに死ぬと思った。だって手足の指の感覚が順々に無くなっていくのだ。
頭もぼーっとしてきた。
ふと豚は回想した。いっぱいやみくもに彼女とHをしたこと。彼女にうそばっかついたこと。親にもうそをついたこと。自分がとった全てに絶望を感じた。
終わりに思い出したのが、サボテンを食わなかったことだ。豚は砂漠を旅していて死ぬなと思った。その時、目の前にサボテンがあった。水分が欲しかったが食べなかった。いつもはふんだんに草を食うのに。何故、そんなことが思い浮かぶのか、豚にはわからなかった。
それからどれくらい経ったのだろうか。目をあけると一本の糸が降りてた。糸はまるでお釈迦様が『蜘蛛の糸』でおろしたやつだった。
豚は上ろうとしたが、ドロドロで上れないし、何故か温かい。
大元を辿ってみると「他の豚」の口だった。
豚は乾涸びるより、生きるだと思い必死に飲んだ。
豚は今も生きている。
<2010.11.30>
希望に充ちた残念な豚の話10「野球帽を被った豚」
少年時代のある日、野球の試合をさぼっていた。
豚にとって夏の暑い日差しはとても「残念」だった。
汗がだらだらでて角煮になりそうだ。室内も死ぬほど暑く、このままいけば、チャーシューにもなりかねない。
豚は隣町の湖まで自転車で向かうことにした。何故ならおばあちゃんの家があるからだ。そこに泊まろう。プチ避暑だ。
山を越え、下り坂を猛烈な勢いでペダルをこぎ、空を飛んだ。着地した瞬間、クラッシュした。
すると目の前におばあちゃんがいる。
「豚やい、おばあちゃんだよ」
豚は顔を見ただけで狼だとわかった。狼は豚を自分の家へ手招きした。下手に逃げるのも怪しまれると思ったので、家へついて行った。
「何か食べるかい?」
狼はとても優しく、狼の料理はどれもおいしかった。豚は自分を騙すにしろ、こんなに親切にされたことはない。いっそ食われてもいいかなと思えてきた。しかしこの家も暑い。
豚は言った。
「おばあちゃん、そういえば僕は湖に泳ぎにきたんだ。湖に行ってもいい?」
「ああいいよ。早く帰るんだよ」
豚は湖で思い切り泳いだ。すると、土手に今度は本物のおばあちゃんが立っていた。おばあちゃんは豚を見るなり、頭をぶったたいた。おばあちゃんは豚の首根っこを掴んで、水汲みに畑仕事と重労働を強いた。豚は激痩せした。本当の狼は誰か。全てが狼なのか。豚はダイエットをして家に戻った。
<2010.11.17>
希望に充ちた残念な豚の話9「人間になりたいんだブー」
豚はテレビで『妖怪人間ベム』を観ていた。
あははあはは、おもしれーなこれ。
まてよ、僕も同じかも。豚は急に不安になり、人間になることに決めた。
鏡の前に立ち自分を覗いた。
「これが僕か、格好いい」
豚は自分の美貌にうっとりした。
でもどこか彼らと違う。豚は気合いを入れて叫んだ。
「僕は人間です人間です人間です」
豚の容姿に変化は見られなかった。
豚は絶望した。
人間になるってけっこう難しい。
豚はとりあえず夜ジョギングをし、整形外科に行くことにした。
すると眉毛がきりっとした豚になっていた。もしかしたら僕は人間にはなれないかもしれない。でも僕と人間の違いは何だろうか。ふと風が吹いた東京ブタロ、丸の外線。線路にぱっと飛び降りようか豚は思った。
そうすれば全てが解放される。
はっ臭い!
やっぱり丸の外線は悪臭がする。豚はとどまった。豚に目もくれず電車に乗る人々の波が揺れている。
僕が豚であることを他者は気にしていない。孤独とともに安心を覚えた。そして最寄り駅の東高豚寺で下車し地上に出た。すると秋風が吹いた。
暖かい格好しよう。そして死ぬまでタバコを吸い続けよう。そう思った。
<2010.10.22>
希望に充ちた残念な豚の話8「一年中……な豚」
豚が納屋で眠っていると、やかましくて目が覚めた。時計を見ると夜の3時だ。
そこいら中からブヒブヒブヒブヒ聞こえてくる。
豚は気付いた。年に一度のピンクな時期だと。
あちらこちらで一心不乱に腰を振る100頭以上の豚たち。
豚は広い納屋を歩き回った。
♂の豚も、♀の豚も一心不乱だ。
豚は、交尾している豚たちを笑った。
数日が過ぎて豚たちの中の1頭、豚Aが豚の部屋に入ってきた。
「君は何であのとき、笑っていたんだい? やりたくならないの?」
「あははは」
「何で笑うんだよ。失敬じゃないか」
「それはね……はっ! …ふっふー」
「豚よ、どうかしたの?」
「はっ! はっ!」
豚は、机の下に下半身をつっこんだまま、ガタガタと机をふるわせている。
豚Aが机の下をのぞくと、メス羊と豚が結合していた。
「はっはっはつ、僕の特技は一年中、何とでもHができるんだよ」
「豚じゃなくてもいいの?」
「OK」
「自由自在なのかい?」
「精神が達者だからね」
「信じられない」
「はっふっぶーぶーぶーおー」
「めえめえめえええあー」
豚とメス羊は息をきらして、その場に倒れこんだ。豚Aは心配し、肩を揺すった。豚Aは、豚が死んだと思った。
それから2分後、豚とメス羊は蘇った。
「もういっちょいくか!」
豚Aは思った。
「豚は、ただの豚じゃない。エロいんだ、豚並以上に。これは勝てない」
と思った。
<2010.10.5>
希望に充ちた残念な豚の話7「青い狸猫と豚」
青い狸猫、の時点でピンと来たあなたは1Q84以上だろう。ピンとこなくてもいいけど。
みんなのアイドルさ。
豚は部屋に6匹のインコを大事に飼っていた。
そこへ友達の青い狸猫型ロボットが遊びに来た。2人は飲んで騒いだ。酔うと豚は籠からインコを解き放った。窓の無い部屋をインコは飛び回った。羽が吹雪のように舞った。
そしてある瞬間、インコが豚の耳に思い切り衝突した。
豚は怒った。
「何で自由にしてやったのに攻撃をするんだ?」
インコは無邪気に豚をつついたのだが、豚は嵐のように荒れ狂った。
豚が目を覚ますとインコが3匹死んでいた。
豚「誰がこんなかわいそうなことをしたの?」
青い狸猫「……憶えてないの?」
豚「途中まで」
青い狸猫「君が……」
豚「待った! そっから先言わないで。タイムマシーン使おう」
青い狸猫「今故障中で」
豚「うそ! ……じゃ仕方ないか。インコの幸せを祈ろう」
青い狸猫は思った。
「豚はいつも本気なんだ」
タイムマシーンが直って過去に行くと、豚は豚を必死でとめていた。
青い狸猫はまた思った。
「豚はいつも本気なんだ」
<2010.9.23>
希望に充ちた残念な豚の話6「救われた豚」
豚が小学生の頃、父と母は別居していた。
豚の父は豪傑で、今、目の前が楽しいこと、それがすべてだった。
豚の母は繊細で先のことをよく考えた。
父は豚にこう言った。
「うまいか? いいから食え」
母は豚にこう言った。
「丁寧に噛んで食べなさい」
豚は男らしく生きるか、堅実に生きるか、いつも悩んだ。
父は、何が何でも生きることを説いた。
母は、人のために生きることを説いた。
豚は母と暮らし、時々、父と会った。
父は誰彼かまわず、馴れ馴れしく、母はそれを嫌った。
父と母が久々に会うことになった。
豚は父に前夜、電話し、口酸っぱく言った。
「丁寧に紳士にね」
当日、父は酔って現れた。母は嫌悪感を示した。
豚はその場を立ち去った。
父はいなくなればいいし、母ももう少し寛容になればいい、と豚は思った。
豚は父も母も基本的に大好きで、ふとした瞬間、大嫌いだった。
そんな時、友人から競馬の誘いの電話があって10分ほど話した。
豚が競馬していいんだろうかと疑問がわいた。
「馬鹿、俺は豚だぞ。馬を賭けの対象にしていいのか、馬鹿野郎」
電話が終わると元気に充ちていた。豚はそして家へ戻った。これも豚が若いころの話。
<2010.08.30.>
希望に充ちた残念な豚の話5「限りなく透明に近い豚」
豚は夏の暑さに負けた。
喉が渇いて限りなく透明に近いカルピスを飲んだ。
すると体が透明に近くなった。誰も豚に気づかない。
豚はメスブタの更衣室に侵入し、裸を見たり触ったりした。メスブタは、キャーとか、アンとか叫んだ。
豚は楽しくなって交番へ行った。寝ているおまわりさんの腰の銃を空に向かって、ぶっぱなした。おまわりさんのおどろいたことなんのって。
豚は交差点で止まった。
赤信号を渡ってもきっと誰も気づかないんだろう。そしたら急に豚は恐ろしくなった。
豚は高級料亭の厨房へ行ってつまみ食いをしまくった。何を食べても、うまいけどうまくない。
猛烈な寂しさを憶えた。
豚は帰り道、自動販売機で普通のカルピスを飲んだ。
すると限りなく透明に近い豚は只の豚に戻った。
よかったと豚は思った。
<20010.8.10>
希望に充ちた残念な豚の話4「緑と紫の豚」
Kの住む豚小屋には大勢の豚が住んでいる。
300頭近くいる。
ある日、西から緑の豚がやってきた。東からは紫の豚がやってきた。
豚小屋で「どちらが本当の豚なのか」という話が持ち上がった。
緑の豚は言った。
「僕は色素が薄くて草を食べると草色がつくのさ」
紫の豚は言った。
「僕の肌はとても薄いから血管の色が浮かんで紫になっているのさ」
Kは尋ねた。
「君たちは豚だと思っているのかい?」
緑の豚は言った。
「厳密にジャンル分けをしたらイノシシと豚ほどの距離はあるかもしれない」
紫の豚は言った。
「僕は豚さ」
Kは言った。
「何でもいい。ただ自分が豚だと言う信念があればそれでいいんだ」
300匹の論争は火花を散した。
二匹とも違う。緑は豚だが紫は違う。紫は豚だが緑は違う。両方とも豚だ。
Kは繰り返した。
「だから言っているでしょう。豚が豚だと思えば豚なのです」
300匹の豚はKに対し白黒つけろと脅迫した。それでもKは同じことを繰り返し言った。
「ようはお前がどうだかっつうことだ。ごたごた話すんじゃねえ」
少し大きい声を出すとあたりは静まるのでした。
<2010.7.28>
希望に充ちた残念な豚の話3「砂漠の豚」
これは豚がアフリカに行った時の話だ。
正確に言えば豚がサバンナを旅していた時、ただひたすらに彷徨っていた。
残念ながらろくな草木に出会わない日が続いた。かれこれ飲まず食わずが五日続いた。
そんな時、数百メートル先に影が見えた。
豚は近づいた。どうやら同じ境遇で死んだ豚だ。まだ肉もあるし、食えば水分も採れる。
共食いの観念が襲った。しかし自分は草食である、しかしながら生きることに最善の策は投じなければならない。
二時間が過ぎた。そんな時、地平線の彼方からもう一頭の豚Bが現れて肉をくった。豚は、じゃあ自分も食うか、そしてこのまま死ねば自分も食われるだろう、だから僕も度べよう、そう豚は決意した。
しかしながら豚の体はもう動かなかった。豚の視界を闇が包んだ。そして大粒の雨がふって来た。生とも死とも区別ができない状態で、豚は口を大きく広げ水分を必死に飲みつつ、気を失った。
気づくと景色は夜に変わり、しかも一日が過ぎていた。目の前に豚Bとキリンが心配そうに眺めている。どうやらオアシスに運ばれたようだ。
「僕はどうした? 砂漠で助かったのかい? 君達が助けたのかい?」
豚は尋ねた。
するとキリンは申し訳なさそうに言った。
「実はオシッコしたくて、しちゃった」
豚は怒りを通りこして、感謝をすら覚えた。
これは豚がまだ若い時の話である。
<2010.7.15>
希望に充ちた残念な豚の話2 「豚の夏」
Kは太陽が真上に来た頃、豚小屋へ遊びに行った。
「こんにちは」
豚は藁の上で眠っていた。
「こんにちはの時間だよ」
「今朝、四時に目が覚めて酒を飲んでしまったんだ」
豚は重い体を起こしタバコを吸い始めた。そこへ二匹の蚊が入ってきた。Kはパチンパチンと手を叩いて蚊を追い始めた。
「やめろ!」
Kは驚いた。
「何で。血を吸われたら嫌でしょう」
「生き物は殺してはいけないよ」
「タバコは捨てるのにかい」
「関係ないだろう」
豚は少し怒りながら言った。
「どうしてだい。蚊だよ」
「生き物は平等に死ぬのは苦痛なのだよ」
「どうしてわかるのさ」
「どうしてわからないのさ」
豚はまた酒を飲みだし眠った。
二匹の蚊は豚にとまり、おいしそうに血を吸った。
Kはなんだか自分がとても小さく感じた。
<2010.7.11>
希望に充ちた残念な豚の話1『豚あらわる』
この物語が誰のことをさすか。それを知っている人は心の内に留めていただきたい。もしかしたら豚はあなたの隣にいるかもしれないからだ。
Kは二十一世紀に一頭の豚と出会った。それは豚とも人間とも言えない、半豚人と言うのがもっともな容貌をしている。しかし豚だろう。
豚は愛煙家で、タバコを吸い終えると2、3メートル先へポンと放り投げ前足で踏む。勿論それが禁煙区域であっても、横に警官がいてもだ。
Kはある時尋ねた。
「それってモラル違反じゃないの?」
豚は答えた。
「清掃係に仕事を与えているのだよ」
Kは言い返した。
「それは詭弁じゃないの?君がタバコを捨てなければ別な仕事ができるよ」
豚は舌を打ちをして納屋へ戻って言った。
Kは悪豚だが根は素直な豚なのだなと思った。
<2010.6.10>
